サービスの利用ログは蓄積していても、利用者数や離脱率を集計するだけで、「では何を改善すればよいのか」まで分からないことがあります。数字の変化は見えても、その背景にあるユーザーの体験までは自動的には見えてこないためです。
この問題を考えるヒントになるのがゲーム業界です。ゲームでは、経験豊富な人によるプレイテストやバランス調整に加えて、行動ログやAIを使って検証を補完する取り組みがあります。本記事では、そこから一般のサービスにも応用できる行動ログ分析の考え方を紹介します。
行動ログ分析とは、ユーザーの「途中経過」を見ること
行動ログ分析とは、ユーザーがサービス内で「いつ、何を、どのような順番で行ったか」という記録を分析し、利用のしかたやつまずきを把握することです。
月間利用者数や継続率を見ると、「利用が増えた・減った」という結果は分かります。一方、行動ログでは、「初回利用後に何をしたか」「どこで止まったか」「継続する人はどのような使い方をしているか」といった途中経過を追えます。
筆者が過去に相談を受けた企業でも、アクティブユーザー率、解約率、利用率といった基本指標は把握できていました。しかし、「新規獲得を優先するのか」「解約率改善を優先するのか」という戦略上のアクションまでは決められていませんでした。状態を示すKPIが分かることと、そのKPIを動かす原因が分かることは別です。
| 見方 | 分かること | 例 |
|---|---|---|
| 全体を集計する | 結果が良いか悪いか | 継続率、離脱率、利用回数 |
| ユーザー単位で行動を追う | 結果に至る途中で何が起きたか | 初回利用後の行動、利用の順番、止まった地点 |
ゲームのバランス調整も、熟練者の判断をデータで補完している
Amazon Web Services(2023年)は、ゲームの行動ログを、武器やキャラクターのバランス調整などに活用する方法を紹介しています。[1] 株式会社HIKE(2024年)も、ゲームチューニングでは経験豊富なスタッフが進行難度や対戦難度を検証し、結果を可能な限り数値化すると説明しています。[2]
DeNAは2020年、『逆転オセロニア』のバランス設計について、リリース前のテストプレイ回数に限りがあることや、設計者の熟練度に依存することを課題として挙げ、強化学習AIによる大量の検証で設計を支援する取り組みを公開しました。[3] また別の検討では、キャラクターの勝率・使用率・所持率などを組み合わせて「強さ」を定量化しています。[4]
重要なのは、人の判断をデータに置き換えるのではなく、人だけでは確認しきれない部分をデータで補完していることです。一般のサービスでも、現場で仮説をつくり、実際のユーザー行動で確かめるという組み合わせに価値があります。
離脱や停滞が多い場所をなくせばよいわけではない
ログから多くの人が止まる場所を見つけても、そこを直ちに簡単にすればよいとは限りません。ゲームなら、意図した難しさ自体が体験価値になることがあります。一般のサービスでも、まず「ユーザーにどのような体験をしてほしいのか」を決め、その想定と実際の行動のずれを探す必要があります。
利用ログを改善につなげるには、先に仮説を持つ
利用ログを改善策につなげるには、最初からデータだけを眺めるのではなく、「何が起きているのではないか」という仮説を持つことが重要です。
実際にサービスを使うと、仮説の解像度が変わる
筆者が分析を支援したあるサービス事業者では、分析前に筆者自身がサービスを利用しました。機能が豊富でさまざまなことができる反面、初めて利用する人が一度に理解するのは難しいと感じました。そこで、「初回利用時に機能を理解するハードルが、継続利用を妨げているのではないか」と仮説を立てました。
この時点では仮説にすぎません。しかし、サービスを体験せずにデータを網羅的に眺める場合と比べ、見るべきポイントは具体的になります。筆者がこの案件を振り返って感じるのは、実際にサービスを体験してからログを見ると、仮説の解像度が全然違うということです。
ユーザーごとの利用サイクルを追って、継続につながる節目を探す
仮説を持ったうえで、ユーザーごとに利用サイクルを追いました。全体の平均だけでなく、初めて利用した人がその後どう動いたか、継続した人と途中で利用が止まった人で利用の経過がどう違うかを見るためです。
分析すると、ある一定の利用段階まで到達したユーザーは、その後も継続する傾向が高いことが分かりました。これは、その段階まで利用すれば必ず継続するという因果関係を意味しません。それでも、継続につながりやすい節目まで、どれだけのユーザーが到達できているかという見方を持つことで、改善すべき顧客体験を具体化できます。
分析結果はKPIとオンボーディング施策までつなげる
この案件では、継続利用と関係の深い一定の利用段階まで到達してもらうことをKPIの一つに置き、初回利用者への人的なオンボーディング支援やキャンペーンを設計しました。
体験する → 仮説を立てる → ユーザー単位で利用サイクルを見る → 継続の節目を見つける → KPIを置く → 施策を考える。ここまでつながると、行動ログは単なるレポート作成の材料ではなく、サービス改善の材料になります。
同じように、データを先に眺めるのではなく、何を判断したいかから仮説を立てる考え方は、別記事「データ分析で差別化するには?セリアに学ぶデータ活用」でも紹介しています。別業界の事例としてあわせてご覧ください。
自社の行動ログを見る前に決めたい3つのこと
自社で行動ログ分析を始めるなら、「何を改善したいか」「どんな体験を目指すか」「何を確かめたいか」の3点を先に整理します。
1. 何を改善したいのかを決める
「新規獲得を増やしたい」と「解約を減らしたい」では、見るべきユーザーも行動も違います。KPIを眺める前に、どの意思決定を良くしたいのかを決めます。
2. 何を「望ましい顧客体験」とするか決める
離脱率が高い、利用時間が長い、特定機能が使われていないといった数字だけでは、問題かどうかは判断できません。望ましい顧客体験を定義し、その状態と実際の行動との差を見ます。
3. その仮説を確かめるログを決める
「初回利用の複雑さが離脱につながる」という仮説なら、初回利用者を起点にその後の利用をユーザー単位で追います。持っているログをすべて分析するのではなく、確かめたい仮説から必要なログを逆算することが重要です。結果が仮説と違えば、仮説そのものを修正します。
まとめ
行動ログ分析の価値は、「どこで離脱したか」を見つけることだけではありません。ゲーム会社のバランス調整が、人による設計やプレイテストをデータやAIで補完しているように、一般のサービスでも、現場の感覚や顧客体験から仮説をつくり、実際のユーザー行動で確かめられます。
利用率や解約率などの集計値は把握できているのに、次のアクションを決められない場合は、結果だけでなく、そこに至る途中の行動を見てみてください。どの顧客体験を良くしたいのか、そのために何を確かめたいのかから考えることが、ログを改善につなげる第一歩です。
自社でも利用ログは蓄積しているものの、KPIの集計から先に進めていない場合は、ユーザー単位の行動に分解することで、次に検討すべき課題が見えてくることがあります。分析手法を決める前に、まず「どんな意思決定をしたいのか」から整理することが、データを実際の改善につなげる第一歩です。
参考文献
- Amazon Web Services「Amazon Redshiftを活用したゲームの行動ログ分析」2023年
- 株式会社HIKE「ゲームシステムの面白さを大きく引き出す――。猿楽庁のバランス調整」2024年
- 株式会社ディー・エヌ・エー「強化学習等による『逆転オセロニア』対戦環境バランス設計支援」2020年
- 株式会社ディー・エヌ・エー「対戦ゲームにおけるキャラクターの『強さ』を定義する」2020年