セリアは「必要ない」と考えられていたPOSに先行投資した
セリアのデータ活用で注目したいのは、分析技術だけではなく、他社が取得していなかったデータを取れる状態をつくったことです。
セリアは2004年、100円ショップ業界で初めてリアルタイムPOSシステムを直営全店に導入し、2006年にはPOSデータを利用した発注支援システムを構築しています。株式会社セリアの公式サイト(発行年記載なし、2026年8月閲覧)にも、この経緯が掲載されています。[1]
100円均一では「POSは費用に見合わない」と考えられていた
現在では小売店のPOSは珍しくありません。しかし、当時の100円ショップ業界では事情が違いました。
日経情報ストラテジー2004年9月号をもとにThe社史(2026年)が整理した内容によると、当時、業界最大手の大創産業と2位のキャンドゥはPOSを導入しておらず、導入計画もありませんでした。[2]
背景には100円均一という業態があります。すべて同じ価格なら、会計だけを考えれば「何個売れたか」が分かれば成立します。POSの導入・運用にはコストがかかるため、その投資に見合わないという考え方があったとされています。
つまり、会計に必要なデータと、経営判断に必要なデータは違うということです。
販売個数だけでも会計はできます。しかし、「どの商品が、どの店舗で、どれだけ支持されているか」が分からなければ、店舗ごとの品揃えや発注をデータにもとづいて変えることはできません。
セリアは、そこに投資しました。
POSによって店舗ごとの品揃えや発注を変えられるようにした
現在のセリアは、各店舗から集まるPOS情報をもとに商品ごとの「お客様支持率」を算出し、地域や店舗の特性を加味して、店舗ごとの商品構成を決める仕組みを説明しています。[1]
つまり、POSは単なるレジの効率化ではなく、「どの商品を、どの店に置くか」という意思決定のためのデータ取得基盤になっています。
そしてセリアは、同業上場企業と比較して高い収益性を記録してきました。東洋経済新報社(2019年)は、当時の営業利益率についてセリア10.3%、キャンドゥ2.6%、ワッツ2.0%と報じています。[3]
もちろん、この差をPOSだけの成果と考えることはできません。商品開発、仕入れ、店舗運営など複数の要因があります。
ただ、他社が必要性を感じていなかった時期からデータ取得へ投資し、そのデータを品揃えや発注に反映してきたことは、セリアの競争力を考えるうえで重要な要素の一つといえるでしょう。
データ分析は「何のデータがあるか」ではなく「何を判断したいか」から始める
セリアの事例から他社が学ぶべきなのは、「POSを入れればよい」ということではありません。データ分析を、手元のデータから始めないことです。
企業からデータ分析の相談を受けると、「このデータから何か分かりませんか」と聞かれることがあります。
しかし、本来は逆です。
まず、
- 何を判断したいのか
- その結果には何が影響していると考えられるか
- その仮説を検証するには何のデータが必要か
- 必要なデータをすでに持っているか
という順番で考えます。
追加データ取得は最初の選択肢ではない
ここで注意したいのは、足りないデータがありそうだからといって、すぐアンケートや新しいシステムを導入するわけではないことです。
追加データの取得にはコストがかかります。
そのため筆者が分析を支援するときは、まず論点仮説を整理したうえで、手元にまだ分析していないデータがないか、あるいは既存データを新しい切り口で分析すれば仮説を検証できないかを確認します。
| 状況 | 次にやること |
|---|---|
| 手元のデータで仮説を検証できる | まず既存データを分析する |
| 一部まで検証できる | 分析結果から論点を絞り込む |
| 意思決定に必要な情報がない | 必要なデータを追加取得する |
| 何が影響しているか自体が不明 | 仮説を立てつつ探索的に情報を取る |
既存データから分かるところまで分析すれば、当初の曖昧な問題意識よりも論点の解像度が上がります。その段階で初めて、「あと何が分かれば判断できるのか」を考えます。
仮説は立てるが、仮説を証明するためだけのデータは集めない
追加データを取る場合も、闇雲に項目を増やすわけではありません。
筆者の場合、まずクライアントへのヒアリングから論点仮説を立てます。さらにデスクトップリサーチを行い、一般的にどのような要因が影響すると考えられているかも確認します。
一方で、最初の仮説を決め打ちしすぎないことも重要です。
たとえば、AとBに相関があっても、別のCという要因がAとBの両方に影響している可能性があります。これを交絡といいます。
また、選択式の設問だけでは、調査する側が想定した範囲の回答しか得られません。そこで自由回答も織り交ぜ、自分たちの頭の中になかった要因を拾える余地を残します。
仮説は調査を効率化するために必要です。しかし、仮説を証明することを目的にすると、本当に見るべき問題を見落とす可能性があります。
追加データを取ったことで「何からやるか」が見えた社員サーベイの事例
必要なデータを追加取得する価値は、分析項目が増えることではありません。意思決定の優先順位を具体化できることです。
筆者が支援した社会福祉法人では、福利厚生や社内制度を見直し、採用基準や採用プロセスも再考したいという問題意識がありました。
しかし、「何を変えるべきか」を判断するための情報がありませんでした。
そこで職員向けサーベイを設計し、追加データを取得することにしました。
当初は「心理的安全性が影響しているのではないか」という仮説があった
サーベイ設計時には、継続勤務意向に心理的安全性が影響しているのではないかという仮説がありました。
ただし、心理的安全性だけを調べたわけではありません。
エンゲージメント、インクルージョン、継続勤務意向などを設定し、複数の観点から組織の状態を把握できるようにしました。実際の分析では、継続勤務意向との関係を見ると、「成長の機会」が特に重点領域となり、次いで協力体制、心理的安全性などが挙がりました。
ここが、仮説を立てながらも決め打ちしない意味です。
「安心して働ける」と「挑戦したくなる」は別だった
分析して意外だったのは、心理的安全性そのものが大きく崩れていたわけではなかったことです。
仕事の充実感は比較的高い一方で、「与えられた役割を超えて、もっと会社のために尽くしたい」という設問で肯定的な層は半数弱にとどまり、分析レポートでは主体性や挑戦意欲に伸びしろがあると整理しました。
この結果を見て筆者が感じたのは、「安心して働ける環境」と「新しいことに挑戦したくなる環境」は同じではないということです。
当初は心理的安全性に目を向けていましたが、実際にデータを取ったことで、成長機会や仕事への活力、帰属意識など、別の論点にも目を向ける必要があると分かりました。
ここに、追加データを取る価値があります。
データ分析は必ずしも「正解」を一つ出してくれるものではありません。しかし、それまで感覚的に議論していた課題を分解し、何から検討すべきかを具体化することはできます。
まとめ
自社のデータ活用を考えるとき、「今持っているデータで何ができるか」だけを起点にしていないでしょうか。
まず考えたいのは、「どんな意思決定を良くしたいのか」「そのために何を確かめる必要があるのか」です。仮説を立て、まず手元のデータで検証する。それでも分からなければ、必要なデータを追加で取りにいく。
セリアの事例が示すように、競争力の差は高度な分析手法だけではなく、「何を知る必要があるか」を考え、その情報を取得できる状態をつくるところから生まれることがあります。
参考文献
- 株式会社セリア「企業理念」「事業を支えるシステム」発行年記載なし(2026年8月閲覧)
- The社史「セリア|規模ではなくデータで競う——発注システムからリアルタイムPOS全店導入まで」2026年
- 東洋経済新報社「100円業界のセリア、生き残る武器は『データ』」2019年
- ダイヤモンド・リテイルメディア「真逆の戦略で高成長維持するダイソーとセリア!100円ショップ進化のゆくえ」2024年